「物理的な距離」にどこまで現代的な解法を持ち込めるか、というのがGEOGRAPHIC(=地理学)という名称の由来で、それに関連するタイトルを今まで作品に付与してきました。GEOGRAPHICの4番目のリリース、Conflictはそこに"事象"という軸を交え、新しいテーマを構築することを目指しました。衝突・均衡という意味を持つ単語ですが、同時に「混沌の後の可能性」というポジティブな意味も含まれています。
現在、我々の周辺にあるコンテンツ / カルチャー / クリエイティブをとりまく様子はさらに重層的・分断的な状態を示しています。それは混沌、と表現しても良いかも知れません。例えば5年から10年、生まれた年が違う事による決定的な認識差は2012年の現在というタイミングにおいて「デジタル・ネイティブかそうでないか」…「GoogleやWikipediaがインターネットに触れると同時に存在したか」「クリエイティブに意識的に触れたのはCGM(コンテンツ・ジェネレイティド・メディア)以前か以後か」という機会差に現れ、「同じフィールドで活動している表現者が、文化的な認識について、かつてないほどの差が開いている」という形で表出しつつあります。
おそらく、人々がこれほどの振り幅と断片性を持ってカルチャーに触れることは初めて体験する現象の1つでは無いでしょうか。それはとても豊かなことでありながら、同時にさまざまな懸念…マーケティングの有効性、コンテンツの質を支えるファンのスケール、ツールの飽和、インフラの多様化について、我々はひとすじの結論を出し切れずに居るのではないでしょうか。
そうした状況の中で出来うる限りの普遍性を持たせたコンテンツの制作は可能なのでしょうか。"Conflict"というタイトルは、そうした意図からスタートしました。タイトルとテーマに対して、「それぞれがどういう解釈をするか」「今の混沌に対して、どういった普遍を提示するか」を示す試みです。そうした文脈を音楽、イラストレーションのみならず、多様な解釈で示すことを目標としました。そのため28Pのブックには文芸とライトノベルの領域で精力的な活動をされている小説家・森田季節氏に「時代・時間に寄る決定的な機会の差」「衝突が起きたときに起きる、世の中への認識の違い」を主題とした10000字の書き下ろし小説を執筆していただいています。
楽曲に関しては、大きく分けて2部の構成を取っています。GEOGRAPHICの今までの主題に即した形で書かれた5曲に加え、混沌それ以後の様子を表現した5曲を書き下ろして頂きました。各ミュージシャンの、また違う側面をお楽しみ頂けるかと思います。また、コンテンツの内容は前作"Atlas"で実験的に行った「コンテンツダウンロード・コード」の仕組みをフルアルバムとして全面的に取り入れています。6名のミュージシャンによって解釈された10曲分の楽曲は、本編のブック内に記述されているID・パスワードからダウンロードを行えます。
GEOG1004 "Conflict"はGEOGRAPHICが元々留意していた「可能な限り、0からのコントロール」を最も体現したアルバムとなります。音楽レーベルでありながら音楽メディア(=CD)を売らない試みは、音楽の聞かれ方、コンテンツの受け取られ方を反映した実験です。ついにAppleはCD/DVDドライブを本体に内蔵する時代を終わらせつつあります。私たちもこうした行為に対してどういった反応を頂けるか、楽しみにしています。
今回はじめてGEOGRAPHICに参加していただいたTomohiro Yoshikawa氏、第一作"Visibility"以来、二度目の参加を了承していただいた岩下倫太郎氏とAyuko Kurasaki氏、前作から更に音楽性の幅広さを私たちに見せてくださったRyo Takahashi氏、多様なジャンルを一本芯が通ったものに短期間で仕上げていただいたマスタリングのネキハルユキ氏、また今回も素晴らしいイラストレーションをご提案下さった爽々氏に、この場でお礼申し上げたいと思います。
また、本作と同じタイミングでリリースされる、GEOGRAPHICの活動に共感頂いている野口尚子氏が主催のサークル"PRINTGEEK"(http://printgeeeek.tumblr.com/)の新作タブロイド誌"PLOTTER"(https://printgeek.stores.jp/)に、前作"Atlas"(http://geographic.jp/atlas/)の詳細な解説と、GEOGRAPHICに関するドキュメントを執筆しました。PLOTTERには私たちのメンバー・坪谷も"Cronica"と題した連載を持たせていただいています。コンテンツにおける歴史や教養、時間や時代を扱ったコラムで、Conflictのテーマのひとつである文化認識の時代による対比とリンクする内容になっています。こちらも併せてご覧頂けましたら幸いです。
有馬トモユキ 2012年12月
小説家。兵庫県生まれ。東京都在住。ライトノベルの複数のレーベルで同時並行的に活動しつつ、文芸とライトノベルの境界線上のようなところで作品を刊行している。作中でも境界や越境をテーマにしたものが多い。今回はCDテーマに合ったノベルを担当。
サラリーマン、北海道生まれ。インターネット黎明期に、後にエレクトロニカと呼ばれる類の音楽を投下し、強烈な賛否両論の評価を受ける。以来、自身のレーベル "Bitplane" にて、生楽器のサンプリングを主体に「ロマンチック、かつなるべく突拍子のない」音楽を模索。
栃木県生まれ。大学中退後まもなくフリーランスのデザイナーとして活動を開始し、企業Webサイトのレイアウト設計を主な業務とする一方、電子音楽/環境音楽の作曲など社会的分業の枠を外れた表現もまた模索している。
音楽家。Arranger・Remixer・Bassistとして、ポップスフィールドからアンダーグラウンドシーンまで自由に横断しながら活動中。斬新で繊細なサウンドプロダクションと、ポップかつメランコリックなアレンジの融合を得意とする。
音楽家。北海道出身。ポップス、ダンスミュージック、エレクトロニカ等幅広く制作中。色彩を放つメロディックなハーモニーと、包み込む様な心地良い音空間を追究している。
ミュージシャン。愛知県生まれ。関東での大学時代に音楽レーベル"XL Project"を立ち上げる。後に愛知県に拠点を移し、クルマ系の事業企画に従事する傍ら現在まで継続。GEOGRAPHICでは作曲、マネジメントを担当。「旅する音楽」を模索しながら活動中。
ミュージシャン、イラストレーター、愛知県生まれ、工学修士。コンピューター・ゲームに携わる一方、「眺めのいい音楽」をテーマにした映像 / 音楽を"Futon."にて展開するなど、可視 / 不可視の境界で活動している。GEOGRAPHICではコンセプトワークと作曲を担当。
デザイナー。長崎県生まれ。都内の広告制作プロダクションにてグラフィック、Web、UIの領域で従事する傍ら、"TATSDESIGN"名義で音楽CDとそのプロモーションに関するデザインを展開。2012年より朗文堂・新宿私塾にてタイポグラフィにおける複数メディアへの定着と実践をテーマに講師をつとめる。GEOGRAPHICではクリエイティブディレクションを担当。